お茶の間だより

おばさんの呟き

シカゴ Chicago (2002)

 


All That Jazz (2002 Chicago Movie)

一部の役者に対するネガティブな内容があります。(ほぼリチャード・ギア


私は原作のボブ・フォッシーに関するものが好きで今もファンです。
「シカゴ」は話は知っていて、かなり前、機会あって舞台で見てました。
鳳蘭と麻美れいがロキシーとヴェルマ。宝塚ファンだった当時の知人と一緒に行ったところ、客席が彼女らの現役時代のファンと思しきおばちゃんばっかりで驚いた記憶があります。…今、こういうの見に行ったら私は完全にそっち側で、私はヅカファンではないけどいいなと思います。

 

ボブ・フォッシーの活躍は1950年代~70年代で「キャバレー」「オール・ザット・ジャズ」という名作映画が残しているし、「キス・ミー・ケイト」「星の王子さま」と言った映画で本人の素晴らしいダンスも見られるし、振付師としても有名なので、映像を検索するとキリがないほどたくさん見られます。

 

この映画が公開された頃、ブロードウェイでは「フォッシー」という、ボブ・フォッシーの作り出した舞台や映画のダンス場面だけを抜き出したものが上演されてロングランとなっていました。私もブロードウェイキャストの一人だけ来日した公演も見に行ったり、ブロードウェイの舞台を録画したDVDも買いました。でも、どれを見ても本人のこのダンスがやっぱり一番かな。

映画「星の王子様」のスネークダンス


sssssSnake in the Grasssss

帽子を取って禿頭を晒したり砂漠なのに上着ポケットから砂を撒いてサンドダンスとか、人を食った演出までがフォッシー。カッコエエ。

「フォッシー」と同時期にブロードウェイで「シカゴ」もリバイバル上演され映画にもなると、この頃アメリカでは降って沸いたようなリバイバルブームだったようです。

監督としても名作を残しているフォッシーの原作を他の人が映画化、とその時点でハードルが高かったろうに、と思いましたが監督のロブ・マーシャルはブロードウェイの振付師だった人で、フォッシーのファンだったとか。
あちこちに「キャバレー」や「オール・ザット・ジャズ」を連想させるところがあっておっ、と思ったのはそういう事かと。


そういう予備知識がなくて、ポスターを見た時に「またリチャード・ギアが出るのか…やだな」と思っていたのですが、映画としてはとても良かったです。

特に主演の二人がハマリ役でした。ヴェルマ役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズは、美人でグラマラス、ダンスも迫力があって、ボブ・フォッシーが生きていたら喜びそうにすら思えたり。

金髪の頭が弱いロキシーレネー・ゼルウィガーで、こっちはどうかなと思ってました。「ブリジット・ジョーンズの日記」の印象が強すぎるし、毎度「美人と言うには微妙すぎる顔」と思う。
でも、結果的に完璧に主役ヒロインでした。彼女の「絶対幸せになれないオンナ」芸はすごい。ジタバタしたり、有頂天になったり、落ち込んだりする時に見せる表情が豊か。泣きわめいたり、いい気になってツンケンするのがバカっぽくて、ロキシーって実際こういう女だったのではとまで思わせるのが彼女の凄さなのではと思ったりしました。

ミュージカルナンバーの「ロキシー」で、ハイレグのキラキラした衣装でモンローウォークし、精一杯色っぽい表情を作って男たちに囲まれるのがレネーの顔身体共に微妙なセクシーさでやられるとどこかネタっぽいんですが、フォッシーの派手なショー場面は、大抵うぬぼれた人間の妄想なので、合っている。

最後のNawadaysからHot Honey Ragは「シカゴ」の中でも名場面で、ダンスの技術的には最後の側転くらい(これも舞台ではやる前に手につばをつけるお約束 笑)なせいか、今まであまたのブロードウェイ俳優、テレビの有名人が映像を残しています。ボブ・フォッシーの振付の多くは、足を蹴り上げたり何回転も回ったりせず、とても抑制が効いていて、身体が磨かれたダンサーが踊ると見る者を圧倒する振付ですが、顔の良い美人がほにゃほにゃと踊ってもそこそこ見栄えがするのも良いところ。

そういう場面があるので、映画的に演出されていても、この場面は二人のキャラがある程度揃っている必要もある。物語としてはロキシーとヴェルマの立ち位置が入れ替わり、最後二人は打算的に妥協して一緒に舞台に立つ事になるがレネーは不思議とキャサリン・ゼタ=ジョーンズのブレない女王様っぷりと並んでもそんなに劣る程でもなく、絶妙なキャストだったかも。

思わぬ注目をさせられたのは、ロキシーの気の毒な旦那役のジョン・C・ライリーで、どっかで見たな?と思っていたらポランスキーの「おとなのけんか」でジョディ・フォスターの夫役だった人だった(この映画の方が後)。あと「めぐりあう時間たち」の中で、1950年代編で一見平和な生活を営むも、違和感に耐えられず家を出てしまうジュリアン・ムーアの旦那役でした。こっちも可哀想な役だったなぁ。
尽くしても相手にされない自らの薄い存在を自嘲する「Mr.セロハン」の歌の場面は存外に上手くて舞台映えしてました。もともとはやはり舞台の役者さんだったらしい。

ワル弁護士ビリー役のリチャード・ギアは私は苦手。以下悪口が続くよ!

冒頭の「オール・ザット・ジャズ」で気分がアガって、歌のごとくごちゃごちゃした展開で話が進み、「おっ、なかなかいい感じでフォッシー作品ぽいじゃないか…」と浸っていたのに、出てきた瞬やっぱ間見るの止めようかな…と思いました。

思えば、コッポラが80年代に撮った「コットン・クラブ」で、世界観や舞台背景、他の出演者たちの芸達者ぶりが素晴らしい中でやっぱりジャズミュージシャン役で出てきたリチャード・ギアだけがダメだった経験が拒絶反応を引き起こしているのかも。
どう考えてもミュージシャンという雰囲気がなく、ただ突っ立っているだけでギャングに気に入られ、ヒロインのダイアン・レイン(この当時本当に綺麗だった)にも好かれ、というのが最後の最後まで納得出来なかった。

年取って図々しいオッサン役も悪くはなかったけど、レネーやジョン・Cが普段他の映画では披露しないエンターテイナーぶりを発揮しているのに、「コットンクラブ」同様リチャード・ギアはボンクラにしか見えなかった。「シカゴ」全体が、人生や世間そのものがショーに喩えられるという内容なので、弁護士の弁説の場面も途中からダンスになるのが、足元だけの映像がどう見ても代役で、やっぱり踊れないんだなと。顔だけノリノリなのが恥ずかしい。「コットンクラブ」の演奏場面も見てる方が恥ずかしかったっけ…今見るとそんなでもないのかしら。

元が日本映画の「シャル・ウィ・ダンス」でリチャード・ギアが主役と聞いて、素人のオッサンがダンスに挑戦してみる、その程度に留めておいた方が良かったのにと心から思いました。見てないのにひどいな私。ていうか何でダンスとかミュージカル映画に絡んで来るんですかねぇ。もともとは案外踊れたりするんだろうか。多分、ナマで見ると背が高くて格好いいんでしょうねぇ。以上。

私が一番この映画のテレビ公開を待っていた理由は、モブで出演しているマーク・カラミアという男性ダンサーをじっくり探すためでした。「フォッシー」のDVD版ですばらしいダンスを見せていた人で、おそらくオリジナルキャストではないし、出番は少ないのですが、鮮烈な印象を残しました。(動画後半)


Dancing In The Dark FOSSE

確証があるわけではないが監獄の女囚たちの「セル・ブロック・タンゴ」の場面で、後で絞首刑になってしまうハニャクというバレリーナぽい金髪のダンサーの相手をしているのが彼だと思います。他にも最初の「オール・ザット・ジャズ」「ロキシー」や法廷の操り人形ダンスにも出ていると思う。twitterで本人アカウントを見つけましたがもうダンサーは引退して映像関係の仕事をしているらしい。
他にも、エンドクレジットでミシェル・ジョンストンの名前も見つけて驚いたりしていた。映画「コーラスライン」で緑のレオタードを着て開幕早々ソロで踊ったり、ディズニーランドでかつて上映されていたマイケル・ジャクソンの「キャプテンEO」でもモブの前の方で踊っていた人である。2002年でも結構なお年になっていたかと思うがすごい。あと、wikiには元々の舞台のオリジナルキャストであったチタ・リヴェラがでていたとあったが、こちらはわからなかった。さすがに踊ってはいないだろうけど、レジェンドが雑な扱いを受けるわけもないのでカメオ出演だったのかな。

これの少し前に私は「ムーラン・ルージュ」を見ていて、残念な気分になってました。美男美女、芸達者、美しい画面と馴染んだ歌の数々、不満はないはずなんだけど。

この映画みたいに出演者に制作する側も舞台人だったり、肉体ひとつで観客を魅了出来るエンターテイナーかどうかってところに、ミュージカルという名のつくものは期待してしまうらしい。踊れなくても別に良い。歌も調整されてても良い。でも、できるだけカメラワークやCGで装飾しないで、エンターテイナーぶりが見たいんです。

でも、そんな要求はもうされないらしい。「アナと雪の女王」でエルザが魔法で作る氷の城のCGには私も呆然しましたが、それに良い曲が乗ればもう優れた「ミュージカル映画」という時代なんだな、と。

私、昨年話題になった「ラ・ラ・ランド」見てないですが、評判とかレビューを聞くにつけ、多分ダメな方だと確信してて見てません。「セッション」が隅から隅まで私にはダメだったってのもあるのでミュージカルとしての評価とは違いそうですが。

その点ではあまり期待していなかったのに、かなり舞台の再現度が高かったのでは、と満足の映画でした。と言っても2002年だもんね。レネーもキャサリンも今は半引退状態、舞台人と女優の旬は短くて残酷。刹那のきらめきを捉えて、はかなく華々しい一瞬を見た思いでした。なんだか二人が恋しい。また見よう。